怪しい物

バックの中身を出すように促され、小生がバックから取出したのは折畳傘1本・日経新聞・筆記道具に講習の資料や教本。
それだけ。
それだけしか出てこなかったことに若い方は失意の表情が見え見え。
〝ついでに身分証も出してやる〟と、ワザと「保険証」を自ら呈示した。

折畳傘にナイフでも仕込んでいないのかと若い方は傘を広げて、骨の1本1本まで点検しだしたが彼らが望む「怪しい物」は何1つ無かった。

〝で、どうする〟と若い方に訊いた小生に巡査長は〝申し訳御座いません〟と謝った。
〝アンタじゃない、コッチのガキに訊いてる〟と、向き直ったが消え入るような声で〝スミマセン〟とだけしか言わなかった。

秋葉原の事件以来、頭にキャップうを被ってザックを背負った者を「危険人物」と見做し、「職務質問」に精励していると事情を話してくれたが、人相や年恰好は関係なく何しろ「職務質問」なのだそうだ。
それはそれで、何の根拠もないアホな仕草だと指摘したが若い方は何ともツマラナイ面をしている。
確かにいつ、どこで人が豹変するのか分らない変な時代になったが、警官どもには何より先に「国民に愛される警官」でなければならない筈だと諭した。
巡査長は兎も角、若い方は自分の思い違いから始まったこの1時間ほどの騒動の終結がコチラからの説教かよと言った風で頭を垂れ、小生の話を聞いていた。

〝約束通り先程の場所で土下座してもらおう!〟と「任意」から解放された小生は外に警官2人と出た。
若い方は最後まで抵抗しそうだったが、巡査長が俄に膝をついたので〝アンタじゃない〟と言い、若い方に〝気をつけろ!〟捨て台詞を吐いてその場を後にした。